2023-05-30

剪定鋏の殺菌(コメント)

投稿者:稲永

これは倉富さんが5月28日に投稿された「剪定鋏の殺菌」へのコメントですが、写真があるので新しいページにさせてもらいます。剪定鋏から伝染したと思われるバラの根頭癌腫病の症例です。

左の写真には4個の癌腫が見えています。黒くて大きいのは発症して半年以上が経過していると思われます。根頭癌腫病は根にだけ発生するのではないことに注目。剪定鋏に付着した菌よっても感染します。

根頭癌腫病については以下を参照。

根頭がんしゅ病|バラ類(バラ科)|病害情報|タキイ種苗株式会社
バラの根頭癌腫病 - 2|ローズそらシド(私のノート)

病原菌は宿主細胞のDNAを書き換え、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンを大量に生合成させるとともに、自分だけが利用できる栄養源としてオパインという物質をバラに作らせるという「遺伝子組換え」をします。その結果があの「癌腫」です。*遺伝子組換え作物は(主に)この病原菌を利用しています。

病原菌は鞭毛を持っていて水中を泳動することができ、根の傷口などから分泌される「アセトシリンゴン」というフェノール系物質によって誘引され宿主に感染します。宿主も硬い表皮や細胞壁などで防御しているのですが、剪定などによる傷口があると防御力が弱まります。元肥の投入時にスコップで根を切るのも根頭癌腫病の予防という観点からすると怖いことですが、その時期は地温が低いので菌も不活発。今の時期の中耕で根を傷つければ、これは怖い。病原菌はどこにでもいるみたいです。

ただし、この遺伝子組換えは複雑なプロセスを経るので、名古屋大学・武田穣教授によれば、実験室レベルでの感染率は数万分の一程度らしいです。病原菌はどこにでもいるが、簡単に発症するわけでもないようですね。だからつい油断する😅

剪定鋏の殺菌・消毒は、感染を拡大しないためのものです。病原菌の死滅温度は51℃だそうなので、熱処理も効果的と思われます。商品名「オスバンS」はベンザルコニウム塩化物液で、これは医療機関や食品工場などで使われています。ドラッグストアでは常備しているはずです。600㎖で800円程度。

剪定する株を変えるごとに、この希釈液に鋏を数秒間漬けるか、希釈液をハンドスプレーに入れておいて鋏に吹き付けます。濡れたままの鋏でもバラには害はありません。

衛藤さん、「保菌箱」? 60℃以上なら「殺菌箱」でしょうか😅

3 件のコメント:

  1. 癌腫病とはこんなに根深く、広範であるとは!私は癌腫病を経験していません。
    故小林先生、そして吉田様に来訪していただいたときに自宅の癌腫病の有無をお聞きしたのですがありませんでした。{病原菌の死滅温度は51℃だそうなので、熱処理も効果的と思われます。}そうであれば熱処理もよろしいかと・・・51°Cではばらが枯れるのでできるだけの高温維持では?私は真夏に息も絶え絶えの状況に一度はばら
    を追い込んでいます。(バラ会に入る前から)。治療にまず患者を高熱状態においてマラリアを治す医師もいるようです。ごめん!素人の意見です。剪定ハサミ用の保管箱は「殺菌箱」です。



    あ!

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  2. バラの根頭癌腫病が発症していないのは、管理がいいのか、ラッキーなのか、あるいは見落としか?:p

    「できるだけの高温維持で」という衛藤さんの方法は理にかなっているのだろうと思います。「死滅温度51℃」というのは、それ以下では死なないという意味ではなく、47℃で滅菌という論文を読んだことがあります。ある程度以上の高温なら、温度 X 時間でしょうね。さすが "素人ではない" 衛藤さんならではの着想です。

    『自分の庭には癌腫はない』と豪語されていた方がありましたが、訪問すると、地植え株に癌腫がいっぱいということもありました。「周りには癌腫病菌がいっぱいいるんだ」ということを忘れずに、できる限り発症させない工夫をするのがポイントなんでしょうか。かく言う私はハウス内で鉢栽培なんですが、毎年1〜2%程度は癌腫病が発生します。ここ数年のその元凶は、なんと、記事で紹介したタキイ種苗㈱から通販で購入したHT株:p 裸苗を3株購入し、その1株の癌腫に気づいたのは1年後で、もちろんそれは廃棄処分しましたが、その菌が他に感染して今も残っているみたい(推測)です。

    衛藤さんは「挿木」がお好きなようですが、穂木の入手やその後の管理にはご注意を。発症株を挿木や接木の穂木にしてはいけないの当然で、これは前述のタキイ種苗㈱のページでも言及してありますね。母木が病原菌を持っているかどうかはわからないので、「挿し床の排水管理」に配慮します。もし発症すれば、爆発的に増殖した病原菌は排水に乗って拡散していきます。多犯性(いろんな樹木に感染する)で、不利な環境でも土壌中に長く生存するのだそうです。

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  3. 管理がいいのか、ラッキーなのか、あるいは見落としか?・・・はい、見落としの可能性は残ります。いつか先輩に検証していただこうと思っています。癌腫病については罰則の厳格も必要あるかも。錦鯉の養殖では病気が発生したら営業不可となっています。養鶏場でのウイルス感染の焼却処分は周知のところです。あ!それと高温処理は金魚の病気にも有効です。

    穂木の入手やその後の管理にはご注意を・・・はい、今のところトラブルなしです。
    「挿し床の排水管理」・・・肝に銘じて怠りません。

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